院長のコラム

「骨と関節の日2015年」心に残るプレゼンとは

さかまき整形外科 酒巻 忠範

 10月4日、「骨と関節の日」市民公開講座が開かれた。私も30分の担当を頂いたため、整形外科で近年普及している薬と新しい手術に関して、自医院のデータを交え30枚のスライドを作成した。対象となる年齢が幅広く高齢者が多いため、どういった内容にするのか悩み作成には1ヶ月を要したが、公開講座当日は200席が満杯に埋まっているのを目にし、準備した甲斐があったと感じた。また今回聴講券が数日でなくなったことからも、一般の方々のロコモに関する関心の高さには驚かされた。

 さて講演本番である。70歳以上の方が7割を占めるなか、眠る人はほとんど無く質問も頂き、自分としては高揚した気分でプレゼンを終了した。しかし後日集計したアンケート結果を見て、最後の方の言葉に釘付けとなった。無難な回答が多くを占める中で、そこには「言葉がはっきりしない。高齢者が多いので、一言一言はっきりと語尾が消えないようにしてほしい」と記載されていた。実は今回モニターとして連れて行った親に、後で講演の感想を聞いたところ「まあ悪くはないが、所々早口で聞きとりにくかった」と指摘をうけた。抜粋したアンケート結果は親の意見とよく似ていて、改めてプレゼンの難しさを痛感した。

 伝わるプレゼンとは何か?数年前になんばグランド花月で村上ショージの1人漫才を見たことがある。いつものスベるギャグで会場を沸かしていたところ、農協の団体バスで来た風情の老人がトイレへと歩きだした。「え・・・おじいちゃん、立ちはるんですか」抜群の間合いで話を切り出し、観客から爆笑をもらっていた。一つ間違えると嫌味に聞こえる言葉も、ギャグに変えるその力を感じた瞬間であったが、振り返るとプレゼンも同じであろう。通常の発表で我々はスライドの力に頼りすぎてはいないだろうか。もちろん学会発表は客観的なデータを提示し、そこから結論を導き出す方式をとるため、スライドは必要不可欠である。しかし話を理解してもらうためには間が必要であって、いくらがんばってスライドを作成しても、伝え方が悪ければ自己満足の世界になってしまう。

 続いて西良先生のどこが勉強になったのかと親に聞いてみた。常に講演のオファーを受け続けるプレゼンとは?素人がどのような感想を持ったのか期待したが、しばらく沈黙の後に出た言葉は「やっぱり声がよかった」であった。「そこか!?」予想とは異なる言葉にやや拍子抜けしたが、考えてみるとプレゼンとはそういうものなのかもしれない。高齢者にとって内容の理解は限界があり致し方ないが、西良先生の持つ話のリズム、間の力が素人にも心地よい印象を残したのであろう。演者は聞き手に対して‘いい間 ’がとれた時、初めて心に残るプレゼンが可能になるという一つの真理に気付かされた。

 最後に忙しい中、準備にあたった大学・臨床整形の先生方に心より感謝致します。