院長のコラム

日本整形外科学会優秀ポスター賞を受賞して

 このたび横浜で開催された第89回日本整形外科学会学術総会で優秀ポスター賞を頂いた。題名は「発育期腰椎分離症~新鮮例に必要なストラテジーとは~」。日本語演題の採択率は66.4%で、採択されたポスター959演題のうち15分野から各一演題が選考される形式であり、私は外傷性疾患(スポーツ障害を含む)分野での受賞であった。

 私にとって分離症は、大学時代に与えられたテーマであったが、あくまでも基礎研究の話であって、実際に臨床で治療に携わるのは2006年に診療所を開業してからのことである。こどもの腰痛は一般病院の外来で目にすることは少ないが、診療所では日常であり、何度か雑誌投稿の機会を頂いたことからも、分離症のリサーチを続けることはマストの課題として必然的に学会への参加を繰り返すことになった。その過程でわかったことは、徳島大学がこの分野で果たした役割は大きく、徳島が確立した初期診断から治療に至る流れはスポーツ整形の世界でゴールドスタンダードとして全国に普及していることであった。いっぽう治療方法は施設間で微妙に異なっており、理由としてステージ診断が各施設であいまいであることが考えられた。

 そこで忙しい外来の現場において、分離症の治療方針が瞬時に立てられることをコンセプトとし、自医院でMRIを用いて診断した103例を分析することにした。しかし椎体(L3・4、L5)、進行度(初期、進行期)、数(片側、両側)の3つの項目に対する骨癒合率を1枚の表にするのはなかなか難しく、学会では何度も煩雑で解りづらいとのご指摘を頂くたびに修正を重ね、2年を費やし今回の抄録にたどり着いた。さらにポスター本番の結論部分は西良教授にアドバイスを頂き、以下の踏み込んだ表現にまとめた。結論「1、HSCを呈するL3&4ないしL5片側分離は治る分離症であり、stress骨折であればこそ治療には確実な安静治療が必要である。2、HSCがあってもL5・両側・進行期の骨癒合は50%以下であり、growth spurt以後の中高生では除痛目的の治療が現実的な選択肢である」

 分離症の治療をされている先生ならば、おそらく今回の私の発表に同意は感じても、Awardを頂くほどのノイエスを感じないのではなかろうか。事実、今回の発表は99%これまで徳島で苦労された先人達の功績のうえに、1%の見解を述べたに過ぎず、受賞に一番驚いているのは私本人である。しかし知識社会に生きるとは、そういうものかもしれない。なにも大きな仕事だけが社会を動かしているわけではなく、自分なりのニッチを見つけ専門に特化し、抜けている一つのピースを埋めることにより微力ながら医療に貢献する。それが結果として認められたことに、報われた思いがした。
最後にポスタープレゼンでは教授はじめ多くの同門の先生方に集まって頂き、ここに改めて心より感謝する次第である。